2023年6月5日月曜日

出会い

俺たち夫婦が出会ったのは、ぺそ(女房)がバイトしていたスナックだったんだ。 まだ俺は学生でね、俺は親の脛っかじりのくせに、そのスナックに通ってたんだ。 考えてみれば、生意気な小僧だったんだろうね。二十歳そこそこでスナックに出入りして、遊びまわってたんだから。 ぺそはね、昼間は楽器屋さんに勤めてたんだよ。 その楽器屋さんの給料が遅れたり、安かったりしてたらしいんだ。 それで、ぺそはスナックでバイトを始めたんだよ。 楽器屋さんにいたいから、バイトをしてたんだね。 スナックのバイトっていってもね、ぺそはGパンに酒屋の前掛けかけて、厨房とカウンターをやってたんだ。 威勢のいいスナックでね、いつも満席だったよ。 「斉藤!踊れ!!」 ぺそが言うんだ。 「はい!ぺそさん!!」 いつも東村山音頭を歌い踊らされたっけ。 まだ、ぺそが俺のことを「斉藤!」って呼んで、俺はぺそのことを「ぺそさん!」って呼んでた頃のことだ。 だって、ぺそは年上だし、社会人だもんな。 俺は年下で、まだ学生だもん。 そんな 呼び方をしてたんだよ。 ある日ね、俺は店が終わる頃まで呑んでたんだよ。 そうしたら、ぺそがね「斉藤、店が終わったら一緒に呑まな か?」って、誘ってくれたんだ。 「いいっすよ!」 二つ返事さ。 だってさ、ここだけの話、俺はぺそがいるから呑みに行ってたんだもん。 あの時はアーリータイムスだったな。 ロックで、二人で30分くらいで空けちゃったっけ。 でも、いろんな話を聞いてさ、俺も話をしてさ、いい時間を過ごしたんだ。 ぺそがまだ人妻で、離婚を前提にした別居中だってこと。 俺は実家の「斉藤家」の重荷を感じ始めて、自分の道を切り開いてみたいってこと。 いろいろ話した。 酒がなくなっても、朝まで話し込んでたよ。 この時かな。 俺、この人と一緒になるかもしれないって思ったの。 なんとなくだけど、思ってた。